少々乱暴ではあるが、音楽の聴き方、楽しみ方には大きく分けて二種類あるように思う。ひとつは音楽の内包するその世界に自らがアクセスし、存分にそれを享受しようとする聴き方。そしてもうひとつは、むしろ自らの世界に音楽がアクセスし、そこにある景色、あるいは感情の一端の役割を担うというものだ。
ここで、はっぴいえんどの言わずと知れた名盤「風街ろまん」を例に挙げよう。本作、特にM3「風をあつめて」は東京オリンピックによって変わってしまった東京の原風景を“風街“という架空の街として現わしたという。彼らが見ていた街とはどのようなものだったのか。歌詞カードに描かれる都電の絵を見ながらアルバムを聴き、何度も想像した。しかし、ひとたび外に出てこのアルバムを聴くと、そこに広がっているのはその瞬間、その場所にしかない僕の”風街“だ。音楽を聴くという行為は一見して、受け身な行為だと思われるかもしれないが、むしろそれは非常に創造的な行為でもあるのだと僕は思う。